2018年1月22日月曜日

2017年度第1回定例会開催記録(2017年7月16日)(第2弾)

2017年7月16日に第1回定例会が開催されました。


先日、第1回定例会のお一人目の報告者の記録を紹介しましたが、続けてお二人目の報告者の記録をご紹介します。


◆日時:2017年7月16日(日) 13時~16時半

◆場所:立教大学 池袋キャンパス 13号館1階会議室


報告者:新倉久乃さん
(立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科 博士課程前期課程2年・
特定非営利活動法人 女性の家サーラー理事)

報告タイトル:在日タイ女性のトランスナショナルな再生産労働の現実 課題と可能性
-日本でひとり親経験をもつ3人の語りから-



本報告では、在日タイ女性で、特にひとり親の経験を持つ女性たちの定住の決断について、インタビューと参与観察から明らかになったことの一部を紹介した。また、本報告では1985年から2005年に来日したタイ女性を在日タイ人と定義する。 在日タイ女性の移動は、世界的に起きた移動の女性化の一部、再生産労働の中に位置付けられる。他のアジア諸国の受入がケア労働であったことと相違し、日本では2005年に人身取引の厳罰化までは、人身取引や結婚の受入であった。この間国際結婚の数も増加するが、離婚やそれに伴う夫の遺棄やDVも多く、報告者も外国籍女性のためのシェルターでタイ語ケースワーカーとして被害者支援を行ってきた。本報告では在日タイ女性は、一時的にDV等被害者になるが、移動して自らを変化させて日本定住を行う主体として捉えた。日本人配偶者として来日し、離婚後も日本に定住することを決断した女性の3人の語りと他の参与観察を通して考察した。第一に、在日タイ女性は、タイ日本両方の社会背景や価値観をもつトランスマイグラントとして定住する。第二に定住の決断が迫られる二つの時期は、「妊娠・出産」と「離婚」である。その決断には、タイの経済発展と格差の影響を受ける成育の経験や日本での在留資格保持のため構造的に弱者の立場が影響する。タイ日のジェンダー規範の相違、例えば母系社会の元、家計負担平等、母への仕送りと自分の新しい家族をどのように支えるか、離婚時ひとり親となった女性たちに決断を迫る。第三に、日本に定住し子育てするために、タイにはない日本の福祉制度利用をすることで、福祉制度の根底に流れるジェンダー役割が、在日タイ女性に同化の圧力をかける。しかし、このような圧力があっても在日タイ女性は「妊娠・出産」と「離婚」の時期、日本への定住をするか、二つの国の家族のトランスナショナルな関係の中で流動的に、主体的に決断している。
まとめとして、在日タイ女性のトランスナショナルな定住には課題と可能性がみられる。課題として、移民政策のない日本では、夫の経済力、情報取得の格差や福祉、法的支援が同化強制になる恐れがある。可能性としては、日本への定住がタイの家族関係の困難から距離を保ち新しい考え、生き方を身に付ける、移民政策はないがママ友や他の外国人のつながりが補う、タイからの移動の歴史が20年を超え多世代で構成するタイコミュニティが存在することが挙げられる。

質疑応答では、本報告においてトランスナショナルな定住をする在日タイ女性ということと、ひとり親としての語りを活かすための論点について、多くの示唆を得た。ライフコースの決断にどのようなジェンダー視角が影響するのかについての意見が提出された。たとえば、離婚に焦点をあて、妻あるいは母という役割を離れた生き方の決断や在留資格や親権の中に日本の男性社会の構造を語りからどのように論じるかである。またトラスナショナルな定住に、タイ日の入国制度の改正やSNSによる物理的に国境を越えない方法での移動が影響するのかという点にも関心が集まった。移民制度の有無で女性たちの可能性はどのように変わるだろうかという指摘もあった。研究の前提として、1970年代からアジアでの移動の女性化やタイ女性のジェンダーについても多くの議論があった。多くの貴重なアドバイスに心より感謝いたします。

2018年1月16日火曜日

2017年度第1回定例会開催記録(2017年7月16日)

2017年7月16日に第1回定例会が開催されました。


◆日時:2017年7月16日(日) 13時~16時半

◆場所:立教大学 池袋キャンパス 13号館1階会議室

報告者:大野聖良さん(日本学術振興会特別研究員(PD))

◇報告タイトル:「在留資格『興行』をめぐる入国管理と“女性”――『入管体制』のジェンダー分析にむけて」

下記、定例会の記録になります。

 日本社会では「国際移住労働の女性化」が特異な形であらわれたと言われている。1970年代、東・東南アジア諸国の女性が大量に来日し、日本の風俗・性風俗産業が女性たちの「就労」の受け皿として機能してきた。その代表的なアクターとして、在留資格「興行」のもとエンターテイナ―として来日したフィリピン女性たちが注目されてきた。
 本報告では、公益財団法人「入管協会」発行『国際人流』を対象に、入管行政において在留資格「興行」と外国籍女性による興行(エンターテイメント)がどのような問題として形成され、議論されてきたのかを言説分析を用いて明らかにした。まず、在留資格「興行」をめぐる諸アクターの位置づけや、入管行政の問題関心の推移を確認した後、「興行」の代表性、規制対象としての「興行」、「興行」・「ホステス」・「売春」との非/連続性についての考察を報告した。今後の課題として、入管行政では不可視化されていた招聘業界の分析の必要性を指摘した。

 質疑応答では、タイやフィリピンの移住女性の研究に携わる参加者から、分析資料の特徴や在留資格「興行」の代表性がいわゆる「芸能人」やスポーツ選手から「エンターテイナー」へと移行した背景、招聘業界の動向に関する質問がだされ、活発な意見交換が行われた。本報告では、日本における在留資格「興行」の議論の展開可能性について確認し、様々な課題を明確化する貴重な機会となった。